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東京に戻ってきました

8月5日に東京の我が家を離れ、22日までは松本で「セイジ・オザワ松本フェスティバル」に参加、続いて自身が音楽監督を務める「八ヶ岳サマーコース」で15人の受講生を指導し、今月3日に帰宅しました。

 松本のフェスティバルは、1992年の第1回から2回休んだだけでほぼ毎年参加を続けていますが、総監督だった小澤征爾さんを失って最初の今年のフェスティバルは、今後へ向けての大きな意味を持つ催しになりました。私は、三つのオーケストラコンサートの全てに出演して6公演に参加、さらに「ふれあいコンサート」ではシューベルトの弦楽四重奏曲「死と乙女」を若いメンバーとともに演奏しました。

 直前に指揮者が体調不良で来日できなくなるというピンチを乗り越えて、サイトウ・キネン・オーケストラは今の私たちにできる最高の演奏をしようと皆で気持ちを高め、首席客演指揮者の沖澤のどかさんをはじめ、代役を引き受けてくださった下野竜也さん、ラデク・バボラークさんらの下で素晴らしい演奏を作り上げ、フェスティバルは成功のうちに幕を下ろしました。

 ブラームスの交響曲、全4曲という、私がオーケストラのメンバーとして最も演奏したいと望む作品による今回のフェスティバルで、私は「どんなに無理をしてもすべての曲を暗譜して演奏しよう」と自分に言い渡しました。でも、実際にやってみて、短期間に次々これらのシンフォニーを弾くこと、それを暗譜して皆と一緒に演奏することはかなり困難な仕事で、何回か挫折しそうになりました。

 でも、仲間たちは一緒にステージに登ろうと励ましてくれ、昔の生徒だった田島高宏君は、練習のない午前中に私が弾くのを聴いて暗譜の間違いを直してくれるなど、何人もが温かくサポートしてくれました。そのお陰で、なんとか無事にすべての演奏を終えることができたのでした。

 オーケストラが大好きで、レベルの高い桐朋学園の学生オーケストラで弾くことを夢に見、それを実現させるために齋藤秀雄先生が私をオケの一員として迎え入れて合奏の訓練をしてくださったのは、60年も前のことです。でも、たくさんの楽譜を見て次々演奏するプロのオーケストラ団員になることは、夢に見ることすらできず、険しいソリストへの道を目指すことになりました。

 そんな私を、小澤さんはサイトウ・キネン・オーケストラに招いてくれ、お陰で30年以上も、このオーケストラの中だけではあっても、一人のオーケストラメンバーとして多くの経験を積むという、大きな幸せを得ることができました。

 指揮者が急に変更されたにもかかわらず、素晴らしい演奏をやってのけたメンバーの能力は非常に高く、その中で演奏することで、今年も私は多くの刺激や養分を得ることができました。それと引き換えに、身体がかなり弱ってしまって未だに回復していないのが少し気掛かりではありますが、胸の中は「この経験を活かして自分の演奏もさらに高めていこう」と希望でいっぱいです。

 私は、16人の「第1ヴァイオリン奏者」の一人に過ぎず、私の好不調はオーケストラの成功に大きな影響を及ぼすものではありません。とは言うものの、やはり一人ひとりのメンバーの心が寄せ集まって一つの音楽を作り出すのですから、私が強い意気込みを持ってこれらの曲の暗譜での演奏に挑戦することは、オーケストラ全体に、ごく僅かであっても何かの影響を及ぼすのではないか、とそんな気持ちで頑張ってきました。

 来年はもう80歳、このような無理はできないかもしれませんが、サイトウ・キネン・オーケストラとオザワ・フェスティバルの発展を願う私の心は、いつまでも持ち続けていくつもりです。

 さて、自分にとってもう一つの柱とも言える「八ヶ岳サマーコース」もいろいろなことがありました。それについては、次回のブログで書くことにしましょう。

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